総入れ歯は、うまく噛めない、うましゃべれない、痛い、手入れが面倒、うっとう しいなどさまざまなトラブルがあります。したがって総入れ歯(無歯顎)の患者さん にとってインプラントにするメリットは非常に大きいのですが、多くのインプラント が必要なので、手術も大変です。 即時荷重のインプラント治療 即時荷重インプラントの治療の手順としては、以下のようになります。 問診を行って治療計画を立てます。X線CT検査を行い、その画像データをインプラント分析ソフト(シンプラント、ノーベルガイドなど)で詳細に検討します。 すなわち、インプラントを埋入する部位の骨の幅・高さ・質が即時荷重に適切かどうかを診断します。 このように、CT検査と分析ソフトは、即時荷重インプラント治療には必須のものです。 しかし、一歯欠損などの少数歯欠損・抜歯即時インプラント、あるいは臨床上および歯科用のX線検査で明らかに骨の状態が良好なケースでは、CT検査が必要ないこともあります。 手術当日、後で述べるような条件のもとで、計画通りに顎の骨にインプラントを埋入し、アバットメント、上部構造(多くの場合は仮歯)まで取り付けてしまいます。 1〜3か月ほど様子を見て、最終的な歯を作製し、取り付けます。仮歯でも即時荷重が可能ですので、患者さんは手術直後から噛むことができます。 ただし、いくら即時荷重だからといって、仮歯の期間はむちゃな噛み方は禁物です。 食事は普通にできますが、硬い食べ物は避けましょう。硬い食べ物とは、イカ・タコ・アワビ・硬い肉類・ せんべい・パンの硬い部分・タクアンなどです。 こうして「もうこの年なんだから、そこまでしなくても」といった理由で、従来の 入れ歯でガマンするという患者さんが少なくなかったのです。ところが最近になっ て、この手術の大変さと治療困難、高額治療、および治療期間が長いといった障害を 解決してくれるシステムが登場してきました。これが「オール・オン4(フォー)」です。 これは即時荷重をベースとしていますから、治療もたった1日で終わってしまう (仮歯まで)夢のような方法です。
通常の歯科インプラント治療は、歯槽骨(元歯があった部分,あるいは歯を支えていた骨)あるいは顎の骨にインプラントを埋入して固定を行ないます。 これに対して、ザイゴマインプラントは、ザイゴマ(頬骨)にインプラントを埋入する治療法です。 このザイゴマインプラントを行なう必要のある患者様は、上顎の臼歯部の骨が極度にやせている方の中でさらに以下のような方々になります。 1)通常上顎臼歯部の骨が不足している方は、サイナスリフト(上顎洞底挙上術)やオンレーグラフト(上顎洞内ではなく骨の上に骨移植する方法)などの骨移植手術を行う必要があります。 この場合複数回の手術が必要となることや、治療期間の長期化が必須となります。 また、自家骨移植する場合は、他の部位から骨を採取しなければなりません。 したがって骨移植手術を上記の様な理由で避けたい方々が適応となります。 2)上顎前歯部(左(そ左右の小臼歯間)の骨の量が少なく、通常のオールオン4手術では対応できない方。
インプラントを顎の骨に埋入手術した後の骨の反応について簡単に述べておきます。 インプラント手術をした直後の状態は、先に述べたように、かなりのトルク値で埋入されていますので、安定度数(ISQ)も最良の状態になっています。 つまり、埋入後初期の段階で最もしっかりしているのが、手術したその日なのです。 骨は生きています。常に吸収と添加をくり返しています。埋入したインプラントの表面に接触している骨は徐々に吸収され、最もインプラント安定度が下がる(つまりインプラントがゆるんでくる)時期が約3週目から4週目くらいになります。 つまり、この期間に微少動揺を50〜150ミクロンの範囲にとどめておくことが、治療を成功に導く基準値であると言われています。 したがって、手術後の仮歯の期間は、先に述べたように、硬い食べ物は避けるべきです。 また、歯ぎしり、くいしばりのある患者さんは、充分な注意が必要です。
しかし顎の状態が不十分てあっても、インプラント治療が不可能というわけではありません。 顎の骨の足りない部分に、患者さん自身の骨を若干移植するなどの方法で骨を補充し、そのうえで同じようにインプラント治療を行うことができるからです。これが「骨造成術」という手術です。 移植する骨は、次の図のようにいろいろな場所から採取されます。骨移植ではなく、人工的な素材を使うこともあります。 骨移植手術は少量の簡単なものから、大量の大がかりなものまで、いろいろあります。しかし、静脈内鎮静法と局所麻酔の併用により、歯科医院で行える範囲のものです(もちろん行える医院は限られていますが)。移植した骨がしっかりと固定される期間が必要ですから、治療の完了までは、通常のインプラント治療よりも長くなります。 インターネットのインプラント相談でよく見かけるのが、歯槽骨造成手術のために入院して腸骨移植や脛骨(足の骨)からの骨移植を勧められたというものです。そこまでしてインプラントをした方が良いのか、患者さんとしては大変悩んでおられるようです。 全身の骨を発生学的に見ると、顎の骨は膜性骨と言い、腸骨および脛骨は軟骨性骨です。 顎の骨に腸骨や脛骨を移植した場合、発生学的に違う骨を移植することになります。 術後の吸収量を比較すると腸骨は顎の骨より3〜4倍の吸収(骨の萎縮が元の移植骨量の30〜50%少なくなる)を生じます。 顎の骨に骨を移植する場合は、顎の骨、または顔面骨から骨を採取した方が、術後の移植骨の吸収量も少ないし、骨密度も高いため、より良いのです。さらに入院の必要もなく、1ヶ月もの間松葉杖ということもありません。 骨造成手術には、以下のような種類があります。 1、自分の骨を移植する骨造成(サイナスリフトなど) 2、GBR(骨再生誘導法) 3、スプリットクレスト 4、下歯槽神経移動術 5、歯槽骨延長術
歯科治療では、歯の機能を回復することと同時に、見た目を美しく維持するという、いわゆる「審美的な目的」も重要視されます。患者さんの顎骨の状態から、通常のインプラント治療が可能であると判断された場合でも、顎骨が痩せているために仕上がりの見た目には不満が残るということもよくあります。 たとえば上顎の前歯の1本をインプラントにする場合、抜けた部分の歯肉や歯槽骨も失われていることが多く、そのまま治療すると歯茎のラインの仕上がりが不自然になります。インプラントにした部分だけ歯茎が短く、歯だけが長く伸びたようになってしまうのです。笑顔のときに歯茎が見える患者さんでは、気にされることもあります。 最近は、このような審美的な問題を解消するために骨造成術が行われることも多くなってきました。